日時
令和2年7月10日(金)14:00~16:00
場所
徳島市万代町3丁目5-3
徳島県職員会館 2階会議室
参加者数
25名
その他
本年度の本講座は、検温、換気、マスク着用、手指のアルコール消毒、会場内の消毒、講義形式での実施など新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じて開催。
「トラウマに配慮した支援の基本」
講師:内海 千種さん(徳島大学大学院社会産業理工学研究部准教授)
いわゆる自然災害だけでなく、それも含めたトラウマ支援にかかわる内容について学びました。
トラウマとは
ギリシャ語で「傷」を意味し、語源は「貫く」
具体的には
・激しいショックをもたらすもの
・生体自体への防御機能を破壊するもの
・人体全体へ影響を及ぼすもの
→個人の今までの対処能力・防衛能力ではうまくいかず、その範囲を凌駕するもの。圧倒的
な外力。
その体験によって受けた傷のこと。
◆3つのEによる理解
〇出来事(Event)=どのような出来事があったのか
・震災、火災、洪水、交通事故、放火、殺人、いじめ、虐待、DVなどの身体的・心理的
に大きな脅威を与える出来事
・その出来事は1回か反復的に起こったことか
・長く続いていることか
〇体験(Experience)=どのような体験をしたのか
・身体的に、心理的にどの程度傷つけられたのか
・どのように体験したのか
〇影響(Effect)=どのような影響があるのか
・記憶や注意などの認知機能の低下
・行動や感情のコントロールの難しさ
◆トラウマ体験の分類
〇単回性トラウマ(1回だけ)=災害、誘拐、強姦など単発に遭遇する外傷的出来事
事故で、自分の身が危ないと感じる→恐怖感や無気力感を覚える
〇慢性反復性トラウマ(何回も)=DV、虐待、長期の監禁など日常的に繰り返される外傷
的出来事
逃れたいと思っても逃れられない→人格形成や対人関係に影響する
トラウマによる反応
◆一般的な反応
以下のことは、全世代に共通する反応であり、全て子どもに起こるわけではない。
これらは異常事態に初期対応しようとする正常な反応であって、あなたが悪いわけではな
いということを伝えることが最も大事なこと。
・恐怖と不安 ・再体験 ・覚醒亢進 ・回避 ・怒りとイライラ ・罪悪感と羞恥心
・悲しみと抑うつ ・否定的な考え方 ・性的関係の問題 ・お酒と薬物
ストレスは身体面や心理面に来るが、人によって出やすいところがある。支援者も自分に
どんなストレス対処法があって、対処をどれだけできるのか、日頃から実際に心づもりをし
ておくことが大事。
◆特に子どもに出やすい反応
・退行現象=赤ちゃんがえり(今まで出来ていたことが前の段階に戻る)
・反復行動=遊び(ごっこ遊び)の変化(その出来事により遊びが変わる)
・前兆=被害への理由付け(自分の行動が悪かったから、その出来事が起こってしまった)
・完全で詳細な記憶=詳細な記憶を持つ(犯罪で自分の被害を淡々と話す)
・解離=自分と切り離す(自分のことと受け止めるのは非常にしんどいので、自分のことで
はないかのように淡々と語る)
◆トラウマ体験後に特有の心理的変化<PTSD症状>
PTSD(PostTraumatic Stress Disorder)とは、トラウマ体験後に起こってくるストレ
ス障害のこと。心的外傷後ストレス障害。
トラウマもストレスの1つで、対処できないほどの大変なストレスによる傷跡。
ストレス障害の1つの精神疾患。
支援の際のポイント
〇子どもがしんどいと思う「きっかけ」・「引き金」をしっかり見る
どんなことが、それを思い出させるのか。(リマインダー)
その引き金(トリガー)にはどんなものがあるのかを見極めて対応を考える。
<外的なもの:わかりやすい> <内的なもの:わかりにくい>
他の人の身体的特徴 考え
場所、状況 記憶
匂い 感情
ことば 身体感覚 など
ニュース
ある時期
大きな変化 など
〇支援の際のポイント
●"no harm"(二次被害の防止)
二次被害とは、周囲の言動、司法や医療、精神保健その他のシステムの中で、被害者が
再び傷つけられること。
支援者は、「がんばって」という言葉がうまく伝わらなかったり、意図しないところで
リマインダーになってしまっていることがあるので注意。正しい知識を持つこと。
●安全の確保
・身体的・生理的安全:適切な休息、水分や食料の補給、室温調整、自由にトイレが利用
できるなどの配慮をする
・行動的安全:行動や社会面、感情面に関わるスキルの指導を行う
・学業的安全:他の子どもの前での発表や音読、返答などの準備の機会を確実に提供する
・情緒的安全:信頼できる状況で、失敗を恐れることなく肯定的な感情も否定的な感情も
共有できるよう配慮する
・社会的安全:全ての子どもに、自己認識、自己コントロールなどのスキルを教える
●心理教育=正しい知識と対処法で見通しを持てるように
~心身の変化やその対処法についての知識や情報の提供
・反応のノーマライゼーションを行う(異常事態における正常な反応)
・トラウマの影響を説明する
・当事者自身の反応を確認する
・回復の見通しを伝える
・必要があれば医療機関、専門機関を勧める
●自分を理解する
・自分に生じやすい反応と限界を知る
・二次受傷:被害者と共感的な関係を持ち、彼らが語るトラウマ体験に繰り返し曝露され
ることで、支援者にもたらされる影響
→子どものしんどい話を聞いて、自分にもそれが起こるかもしれないと思う。トラウマ
の話を聞くことによって傷つく。
●自分を大切にする
支援者自身の防災ができていることが前提。支援者は、だるそうにしている、口数が少な
くなるなど元気のない状態が続いていないかお互い注意し合う。
感想
- 災害時のみならず普段、子どもと接していて様子の変化に気付いた時にも対応できる内容で、勉強になった。まず、自分自身のストレス対処法からしっかり身につけて、子どもへ対応できるようにしたいと感じた。
- 具体的な言葉かけなどを教えていただき有難かったです。トリガーについてよく理解し、児童がPTSDを乗り越えていく手伝いをしたいと思います。
- 今回は被災児童の講座であったが、「トラウマ」への対応など、現在関わっている子どもたちにも通ずることが多く、勉強になりました。子どもたちの話を聞く、気持ちに寄り添う、共有することの大切さを改めて感じました。
- 災害時に自分のできることが何か考えていたのですが、良いヒントを与えていただきました。